第54章 曇
「ただ、いま…」
棘の実家には後日向かうことが決まり、私は何かに追われるように急いで家に帰ってきた。
余分と思っていた3つものドアチェーンを全てかけて、上下ふたつの鍵を閉める。
そして、玄関マットに体を預けてうずくまった。
(…怖い)
得体の知れない恐怖で体が震える。
涙まで出てきて、そのまま玄関から動けなくなった。
(早く…傑に会わないと…)
千春に会えない。
”殺される”
千春に会えないまま…死んじゃうかもしれない。
でも、傑の場所が分からな────
「ここであってんの?」
「そう」
「えっと、鍵、鍵…」
昨晩、というか、さっき……任務を終えたばかりの俺ら。
俺と釘崎は一度来たことがあるこの部屋。
八乙女さんに会いに来たのは聞きたいことがあったから。
”会いに行く用事があるなら、これ渡して欲しいっす”
沖縄旅行の最終日に顔を出した、八乙女さん達の後輩である補助監督……和田さんという方が、八乙女さんに渡したいものがあるらしい。
しかし、何故か八乙女さんを避けている和田さんが、新田さんにそのものを預け、新田さんが俺らに預けた、というわけである。
会う予定はなかったけれど、釘崎がどうせなら行こうと提案し、今に至る。
禪院先輩が言うには家にいるらしいが、インターホンを数回ならしても応答がなかったので、釘崎が持っているという合鍵を使用する魂胆だ。
「…おっ、開いた…って、チェーンが…」
「「…!」」
数本のチェーンがドアを繋ぎ止めるその奥…。
その奥に人間の体が横たわっている。