第54章 曇
それから私が爆発するまで、長い時間は必要なかった。
(波風、立てず、平穏、に)
相変わらず授業はサボり、先生達は私がどこに隠れているのか探すためにHR後に跡をつけるなど対策をしたらしいけれど、私が捕まることはなかった。
(波風…立てず………平穏に!)
「ねぇ、八乙女さん」
(波風立てず…)
「学校にお菓子持ってきたらダメなんだよ?」
(へい、おんに…)
何故か私のカバンを持っている目の前のクラスメイト。
勝手に中を漁った彼女が取り出したのは────
(触らないで…)
ポーチ。
その中には飴が2個入っている。
(波風立てず、平穏に)
言いたいことがあっても我慢する。
平穏に生活しなくてはならないから。
「先生にバレたら怒られちゃうよ?」
彼女が善意で注意してくれているのか、私をお菓子を持ってきた悪い子だと告発したいのか、その真意は分からなかった。
「さわら、ないで」
「あとさー…」
彼女は私のバックを逆さまにして中身を全て出し、それらを踏みつけてどこから引っ張ってきたホースでビショビショにした。
「ふはっ、何その顔。初めて見たー」
カバンや教科書など、お母さんが買ってくれたものだけれど今はどうでもいい。
飴が、彼女の手に、あるのが、どうしても…
『落ち着け』
「…今の八乙女さん?」
落ち着く。
(波風、たてずへいお、んに)
『あれはあの飴じゃないだろ』
(なみ…)
「何これ。誰の声?」
(へいおんに)
「さわら、…ないで」
「へ?ああ、これ?」
彼女は私の気持ちも知らず、飴を強調するように掌を広げた。
「返して」
「か」『千夏!』
限界だった。
「返してよ!!!!!」
その瞬間、私の死が確定した。
「はぁ…っ!」
目の前に倒れる彼女は、無造作に捨てられた人形のようで。
「…や、っ、ちゃっ、た……ごめ、ごめんなさ、い…」
五条くんと別れてからの数年間が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、今の現状に終着する。
それから────五条くんが迎えに来てくれるまで
私は変な部屋に閉じ込められた。