第54章 曇
頬に力を入れてにっこりスマイル。
「棘〜!」
私に気づいた棘はサッと頭を下げて、しゃけと言った。
「まだ外は暑いし、君らの教室行こ。今は休み時間でしょ?」
「しゃけ」
はい、いいえ。
それくらいなら棘の言葉を理解できるようになったが、文章となると課題が山積み。
今日は真希もいるらしいから、意思疎通に問題は無いと思いたい。
「涼しーねー」
「しゃけ、いくら」
「何で棘はおにぎりの具しか言わないの?」
「たかな」
「…?」
「おかか。ツナマヨ」
「????」
ダメだ。
分からん。
「千夏さん、飲み物買ってきました」
「気が利くぅ〜!ありがとう」
「ほら、棘も」
「しゃけ」
真希と棘。
「ああ。今、1年ってみんなで任務か」
「はい。朝、揃って車に乗ってました」
野薔薇から愚痴のメールが届いていた気がする。
「えっと。2人は何が聞きたい?なんも準備してきてないけど…」
「千夏さんが呪言師だったこと。そして、千夏さんが術師として働いてる理由をお願いしたいです」
なんとも私の核心をつくような質問たち。
言葉にするのは難しいけれど、答えたくない訳では無い。
「んー…。私が呪言師になった…っていうのが正しいのかな?初めて呪言を使ったのは中学2年生の夏」
今でもはっきり覚えてる。
全てを失うとはどういうことか、初めて身をもって体験した日のことだから。
「そもそもね、私がこの世界に足を突っ込んだのは偶然で…。うん、この話からしようか。いい?」
「はい」「しゃけ」
今まであまり話したことの無い、私が一般人として中学校に通っていた日々のこと。
ただ机に座っていればよかったあの日々を…今一度思い出してみよう。