第54章 曇
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「宅急便でーす。ここにハンコお願いします」
「…はい」
「ありがとうございましたー」
私は何をやっているんだろうか。
朝起きたら体が起き上がらなくて。
それでもしばらく足掻いてベットから落ちるように無理やり動いた。
洗面所に行って顔を洗おうと思えば、鏡に写った自分の顔を見た瞬間。
とめどなく涙が溢れてきて、その場に崩れ落ちた。
宅配便が来るまでそうしていて、今に至るという訳だ。
きっと、あの男の人は私の姿を見てギョッとしただろう。
『はぁ?なんでそんな薬…。調べたの?』
医師免許すらズルして手に入れた女だ。
薬の一つや二つ、くすねてくれてもいいのでは?と思ったけれど、やはり薬というものは人の命を容易く奪えるものであるために、親友も簡単に頷いてくれなかった。
『病院行きな。私もついてってやるから』
『…大丈夫。ごめん忙しいのに』
『ちょ、千夏!』
訳なく胸が痛くて、苦しくて。
私はこの苦しみに耐えられるほど、強い人間ではなかったようだ。
「はぁ……はぁ……千春…」
助けてよ。
あの時みたいに出てきてよ。
あんな一瞬じゃ、話なんかできないじゃん。
プルルルル…♪
『もしもし?棘が今日の約束忘れてないか確認したいってよ。信用されてねーな、お前』
ああ、約束…。
「忘れるわけないでしょ。今準備してる」
『…?何かあったのか?』
「何もない。あ、学長に午後会いに行くって伝えといて」
『自分で言えよ』
「だるい。切るよ」
そうだった。
今日は約束通り、皆に自分の術式を話す予定。
(行かないと…)
今まで辛いことは沢山あったけれど、こんなに深い虚無感に襲われたことは無い。
子供の頃の方が忍耐力が強かったのだろうか。