第54章 曇
「伊地知〜!早すぎるってば!」
指で潰せそうな大きさなのに、ハッキリとした声がここまで届く。
「ちょっと迎え行ってきます」
伊地知は私の手を払って、その豆粒サイズの女の元へ走っていく。
「…あれって和田さん?」
「そうですよ」
「ちょ、っとぉ!伊地知が変な風に溜めるから、和田さん…死んじゃってると思ったのに!!!」
伊地知に対する鬱憤を七海ちゃんにぶつける。
「…でも、言い淀む理由があるんですよ」
「…理由?」
「千夏さんが戻ってきてから1年近く経ちますけど、1回もお会いしてないんですか?」
「うん。私、大体単独行動だったから。高専でたまたますれ違う確率なんて、たかが知れてるでしょ?」
正直、和田さんやウルハのことは忘れていたし。
なるべく過去は振り返らないようにしてたから。
「いやぁ、沖縄って遠いなぁ」
伊地知の手を借りてやってきた和田さんは、昔を彷彿させるように笑った。
けれど、その姿に私とウルハは愕然とし、上から下まで何度も視線を動かした。
「久しぶり、ウルハっち!!」
「……久しぶり」
「ああ、これ?」
試着したワンピースを見せびらかすように、自分の体をひらく。
「ちょっと昔、ドジっちゃってさぁ。これ、カッコイイでしょ?」
「…全然かっこよくない」
「ははっ!正直者だねぇ」
義手、と言うものだろうか。
肘から下にロボットみたいな腕をつけている和田さん。
しかも、その顔の皮膚は真っ赤で、血管かなにかが浮き彫りにされている。
「八乙女先輩もお久しぶりです!私の事覚えてますか?」
「うん」
「え、嬉しぃ!」
別にこういう人を見るのは初めてではない。
(義手を見たのは初めてだったけど)
「今何してるの?」
「補助監督!先輩が生きてたっていうのは聞いてたけど、ココ最近まで海外行ってたからさぁ。ほら、乙骨くんの!」
「へぇ」
流石和田さんと言ったところか。
空気が辛うじて重くならない。