第53章 本気で想う大切な人
*****
「どうぞ。結構いい家でしょう?」
「お邪魔します」
私だって一応呪術師であり、それなりに仕事がある。
今回沖縄に来たのも仕事を切り上げ、押し付けてきたからであって、本来は今すぐに帰らなくてはならないのかもしれない。
けれど、鈴木さんは私の腕を掴んで離さない。
そのせいで帰れないことはもちろん、鈴木さんの旦那の目が怖い。
「七海先輩、お風呂先どうぞー。あ、別に長風呂でいいですから。むしろそっちの方が助かります」
それなりにもてなしてくれようとしているのか、かなり豪華な料理を作ってくれるみたいで、鈴木さんは自分に喝を入れた。
「んで、お風呂上がったら……ね?」
ああ。
そうであった。
鈴木さんの憎たらしいウインクに、私は肩を落としてため息をついた。
「…お風呂お借りしました」
「あ、おかえりなさいー」
鈴木さんは子供の相手をしながら料理をするなどという高度な技を披露する。
自分と同年代の人が、こうして家庭を持って立派に生活している様子を見ると…何とも不思議な感覚になる。
「ウルちゃーんも。お風呂行ってきて」
「…まだ料理」
「俺がやっとくから。体汚れてるし、サッパリしたいでしょ?」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
鈴木さん…は、正確に言うと今は鈴木さんではない。
愛する人と共に家庭を作り、新たなスタートを切っている。
「七海先輩〜、傷染みました?」
「私はほとんど怪我してないので」
「うわっ、流石ですね」
…懐かしい風にやられたか?
妙に痛む胸を控えめに意識した。
「ななみせんぱい?」
「…ええ、まぁ」
「でんしゃさんごっこしよーよ!」
「いいですけど…」
子供に手を引かれると、鈴木さんは笑って出ていく。
チラリと旦那さんを見上げれば、にこやかに笑っていた。