第53章 本気で想う大切な人
そしてお次は
プルルルル……♪
中々コール音が途絶えない。
時折、ホテルの客とすれ違いつつ廊下を進んでロビーに出た。
(…出ない)
まぁいいや。
とりあえず、宿泊費の精算をすべくカウンターに向かった。
私が普段扱うことの無いような金額だけれど、特に生活の痛手とはならない。
「八乙女様」
「はいっ!」
場に似合わぬ大きな声。
「体調が優れませんか?」
「え?ああ、普通ですけど…」
「ご気分が優れなければ、直ぐにお申し付けください」
「あ、ありがとうございます」
またこれだ。
どうしたんだろうか、私の体は。
少しの物音にも過敏に反応し、何かと不安が離れない。
体を動かしていないとどうにかなりそうで、貧乏ゆすりのような小さな動きが止まらない。
プルルルル…♪
小さなバイブに対しても、体が跳ねるほど驚いてしまう。
今回の着信は折り返しのものだった。
「はい」
『どうかしましたか』
電話の相手……七海ちゃんの開口1番は前のめりな状況質問であった。
「そんな大したようじゃないんだけど、体大丈夫かなって」
『……ええ、大丈夫です。私はほとんど働いてませんから』
「なんの電話だと思ったの?」
『五条さん絡みで、また何かあったのかと…』
「…心配してくれた?」
『…それになりに焦りましたよ』
私を心配してくれる人がここにいる。
少し気持ちが落ち着いたような気がした。
「それより、どこにいるの?」
『鈴木さんの家です。泊まれと脅迫されまして』
「脅迫って…」
…まぁ、ウルハならやりかねない。
『鈴木さんも特に大きな怪我はなかったようです。明日の筋肉痛は心配されてましたけど』
「ははっ、確かに筋肉痛は怖い」
『千夏さんは大丈夫ですか?』
「うん。みんなも特に大きな怪我はない」
しばらくの沈黙後、そうではなくて、と注意が入った。
『気持ちの方です。貴方の言葉を借りれば、友達を失われた訳ですし』
「…それが平気なんだよね」
『…そうですか』
「もう慣れちゃった感じっていうの?またかーって思いが強い」