第53章 本気で想う大切な人
「うわー。この部屋に1人で泊まってたの?」
「奮発した」
「ひっど。僕との旅行の時は格安の部屋を選ぼうとしたくせに」
「悟とは旅行計画立てたことない」
「僕の妄想の話」
「…それなら私悪くないじゃん」
旅行計画を何通りも立てるなんて、虚しくないのだろうか。
どれも実現することは難しいことが分かっているのに。
「すっごい部屋」
悟が窓を開けてベランダに出て、辺りを見渡した。
「千夏ー」
「んー」
「海綺麗だよ」
「そうだね」
アクセサリーと腿の道具を外して、ドレッサーの上に置く。
「ほら、見てよ」
「んー」
「見なきゃ損だよ」
髪を解いて、ドアのサンに寄りかかった。
「この部屋選んだ理由、当ててあげようか?」
「当てられないと思うなー」
悟は指を立てて横に振る。
「舐めるなよ〜」
そして、ベランダの柵に両手を広げ、腰を預けた。
「昔……硝子達と泊まった部屋。だから選んだんでしょ?」
昔は4人で。
今は2人で。
「このホテルに泊まってるって恵に聞いた時から、もしかしたらな〜って思ってたけど。よく僕のこと部屋に入れたね」
「どういうこと?」
「思い出の場所に僕がいて、辛いのは千夏でしょ?」
悟の言葉を嘲笑う。
「綺麗な思い出が無機質な景色に廃れるのには、もう慣れた」
「慣れちゃう、か」
「そういうもん」
「そうだね」
いっぱい、いっぱい。
そういう経験をしてきたから。
「先お風呂入ってきて」
「部屋主がお先にどうぞ」
「いいから」
汚れた爪を見てため息。
いつかはネイルをしてみたいものだ。
「疲れてるでしょ」
「どっちが」
ふっ、と。
爪に息をかけて、驚く悟の顔に眉を寄せる。
「何年一緒にいると思ってんの」
早くしないと鍵を閉めると脅して、私は近くのソファに腰を下ろして足を労った。
「…ん、じゃあ……先入るよ?」
「どーぞ」