第53章 本気で想う大切な人
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「え、部屋空いてないんですか」
「申し訳ありません」
ホテルに着くや否や、空室がないことを告げられた。
宿泊した感じ、混んでいる印象はなかったから、絶対大丈夫だと思っていたのに。
「近くのホテルを確認してみます」
「いや、だいじょ」
うぶ……ではないか。
いつもの調子で返事をしそうになり、思わず振り返る。
「違うホテル行くよ」
悟が隣に来て、カウンターに手をついた。
「この近くのホテル、ピックアップして貰っても?」
「かしこまりました」
「待って、私の部屋…」
ああ、私は何をしているんだろう。
思考と行動が噛み合っていない。
「私の部屋、2人いけますよね?」
「ええ…。八乙女様のお部屋でしたら、2名様の宿泊に対応しております」
コンシェルジュが悟を見上げた。
私も同じように見上げる。
「ちょっと待ってくださいね〜」
悟が私の肩を掴み、横にスライドする。
近くのソファまで移動した私達は、そのまま腰かけた。
「…やっぱり一緒の部屋は厳しい?」
金銭的にも気持ち的にも一緒の部屋に泊まった方が効率がいい。
でも、流石にそれは私達の間柄的によろしくない。
「厳しいって……千夏、嫌でしょ?」
「私?」
「僕と同じ部屋なんて」
嫌でしょ?、と。
「何で?」
「僕、何するか分からないよ?」
あ、そうか。
悟とまともに話したのは、あの時が最後。
何年も一緒にいるけど、唯一忘れたくなった記憶。
「怖がらせたいの?」
「だって、怖かったでしょ?」
「…否定はできない。けど!」
あれは悟じゃなかった。
「…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
自分がどんな顔をしたか分からないけど、悟は口をへの字にしてその旨をコンシェルジュに伝えた。
「では早速…」
「ルームウェアとタオルだけ貸してください。後は自分たちでやるんで」
「かしこまりました」
とりあえず、必要なものを受け取って部屋に向かおうとしたが、ひとつ大事なことを忘れていた。
「すみません。氷……アイシング用の氷くれます?」