第51章 コイワズライ
カツカツ、と。
石畳の地面が鳴る。
「…」「…」
七海先輩の顔は生きている人間のように見えなくて。
その背中に抱えられている人物よりも────実際に死んでいる人間よりも、死んでいるようだった。
一応医療的処置は行ったけれど、1度心肺が止まった人間は生き返らない。
慰安室で眺めた灰原先輩の顔は、正直美しいものではなかった。
死に顔こそ美し、と。
そんなことは全くなくて、泥や汗やら、努力が無駄に現れていた。
「…飲み物、いりますか?」
きっと七海先輩も限界だっただろうに。
そんなことを言ってくれて。
ここに私がいたら七海先輩は気を遣う。
そう思って、私は1度部屋を離れた。
お水を買って。
私は一人で泣いた。
(…この日が最後だったな)
結婚した時も、子供が生まれた時も。
申し訳ないけど、この時より感情が動かなかった。
改めて見ると私の泣き顔はやっぱりブスで。
私の旦那はこんな顔ですら好きだと言ってくれる。
旦那のことは好きだ。
この気持ちに紛れはない。
けど、それはやっぱり……灰原先輩のことを完全に忘れた時の話で。
”辛いなぁ…”
打ちひしがれた自分を見るのは辛い。
色々思い出してしまうし、私も泣きそうになる。
これは今までずっと、何度も何度も考えているのだけれど。
やっぱり、灰原先輩が死んだのは私のせいなのだろう。
私を救ったから、灰原先輩の運は底を尽き────
”あー……こりゃダメだ”
目の前の私はお水を取って、飲んで、しばらくうなだれて、そして再び慰安室に戻って行く。
けれど、私について行く勇気はない。