第7章 運命
「ふぅ。気持ちよかった」
「それは良かった」
「今何時?」
「9時30分」
「あんた何でお腹空かないの?」
「さぁ」
硝子の部屋に鍋の材料があるらしく、2人で鍋を食べようということになった。
片方が料理して、片方がお風呂に入る。
途中で交代して、2人で温かい鍋を食べる。
「柚子胡椒とって」
「はい」
ホクホクの鱈が美味しくて、食欲がなかったことが嘘のよう。
硝子にも驚かれた。
「…今頃、五条達何してんだろ」
「明日には帰ってくるってよ」
「なんで知ってんの。ずるい」
「千夏が電話出ないからでしょ」
そういえば、携帯どこにいったんだろう。
後で硝子にかけて貰って探さないと。
「何か懐かしい」
「何が?」
「千夏の喋り方が刺々しくないのが」
硝子はわざとなのか、天然なのか、鍋を掻き回して豆腐をぐちゃぐちゃにしてしまった。
「初めて2人で任務行った時のこと覚えてる?」
「もちろん」
「帰りに会った子供たちに優しく話しかけてたじゃん」
「そうだっけ」
「あの時『千夏ってこんな喋り方できたんだー』って感心したよ」
正直子供たちの件は覚えていないけれど、頷いておいた。
硝子がぐちゃぐちゃにしてくれたおかげで、非常に食べにくい。
カス同然になってしまった豆腐を、必死にかき集めて食べる。
「ほんと、色々あったよねー」
「あったねー」
これから何があろうと、私たちはこうやって鍋を囲んで思い出話をすると思っていた。
おばあちゃんになって『お互い老けたね』と言い合えると思っていた。
私達の青春は、誰にも邪魔されないと思っていた。