第50章 熱源
そんな風に無責任なことを考えていると、私の前を腕なのか足なのか分からない物体が通り過ぎる。
「っ…天巡命命!」
今度は私が標的か。
急いでサイを下に投げつけ攻撃を防ぐ。
けれど、6面体のサイコロでは到底この呪霊に太刀打ちできない。
数を3つから、4つに……5つに増やしても同じだろう
試すことすらしなかった
「貴方は多分、この中で一番弱いね」
「そ、ですね!」
「何で逃げないの?」
逃げられるのなら、逃げたいところだっつーの!
サイを振って、振って、振りまくる。
きちんと出た目を覚えながら、使った運を数えながら…。
「…なにこれ、釘?」
「あーそーだよ!私の術式…なっ!」
釘崎…さんの助けもあり、私は何とか無事に息をしている。
ちらりと先輩達の様子を伺う余裕ができた。
先輩達…あのボロボロの男の子も含めて、一般人を掃けさせている。
明確な証明がないから、あまり信用されていないみたいだけれど、徐々に人が掃けていく。
「お前はこっち来いよな…クソっ!」
確かに。
釘崎さんの言葉に1人頷いた。
(先輩がまいた種なんだから、責任取って欲しいわ、うん)
どうして私達が必死になって戦っているのだろう。
その答えは簡単。
自分が死にたくないから。
その答えが出てしまった今……その答えが純粋に私の心から溢れてしまった今、私の腕は止まってしまった。
「鈴木さん!」
そして、そんな隙を作ろうものなら、私の腹に穴が空く。
「うんうん♡みんないい顔してる、きゃはっ…」
呪霊の目的は、ここにいる誰かに命に関わる怪我をさせること。
そして、先輩に自分のところに戻ってきてもらう魂胆だろう。
「鈴木さん!」
「…あー…いい、よ。ほっと、いて…」
この怪我は自分で生んだも同然。
(…だって、思い出しちゃったんだもん)
そして、思い出したと同時に、自分の腐り具合を目の当たりにした。
だから私は
今も、昔も
戦うのを諦めたのだ。