第49章 この世の理
「…千夏ちゃんの気持ちは優先したいけど。この人、千夏ちゃんに謝ってすらないんだよ?人間って言葉を大事にするのに……謝ってないんだよ?」
アイツが冷めた目で男を見下ろす。
「わ、悪かったよ」
「何がぁ?」
お願いだから、呪霊…。
それ以上煽らないで。
「ゆ、許。してくれ…」
「だって、千夏ちゃん。どー思う?」
「…」
やめてくれ。
「お、覚えてるか…?小さかったから、お、おほえて、無いかもしれないけど、ほ。ほら。ご飯とか一緒に食べたよな……”千夏”」
男の口から彼女の名前が紡がれた瞬間────
彼女の手が男の首にかかった。
彼女の握力はここにいる誰もが知っている。
それに反応した時には────
「天巡命命」
鈴木さんの声が既に残響となっていた。
サイコロは既に落ちている。
術式は発動し、確かにアイツの体が男から離れていった。
「八乙女先輩、それはないですよ」
私の頬に汗が伝る。
鈴木さんは眼鏡を外して、それを胸元へ掛けた。
「…ウル、ハ?」
「…36ごときじゃ、先輩は止められないか」
鈴木さんは自虐的に笑うと、アイツの体はストンとその場に落ちた。
「もぉ、折角千夏ちゃんが衝動的になったのに、止めないでよね!」
「あんたこそ、先輩を煽るのやめてくれる?」
鈴木さんは呪霊を見る目が冷たい。
他の誰よりも冷たい人だった。
「どうして…ウルハがここに?」
「七海先輩に呼ばれたんです。動ける人がいないからって言われたけど……まぁ納得しました」
そして、その瞳は私達を捉えて、けれどその鋭さを隠そうとはしなかった
「ここまで一緒に来たんですけど…随分と慕われてるみたいで」
「…」
「そりゃあ、七海先輩が私を呼ぶわけですよ」
そして、渾身の冷ややかな目を彼女へ向けた。
「いざと言う時に先輩を殺さないといけない訳ですから」