第49章 この世の理
「…まぁ、殺せるかどうかは別ですけどね」
鈴木ウルハ。
八乙女千夏の2期下で呪術高専を卒業し、現在の職は不明。
しかし、呪術師を辞めたという情報だけは分かっている。
「だよねぇ!貴方に千夏ちゃんは殺せないよ〜ははっ!でも、珍しい術式だねぇ」
1人と1呪霊がヒヤヒヤとする会話を繰り広げる中、話題に上がる彼女はのそっと立ち上がった。
「先輩。復讐かなんだか知りませんが、今すぐ領域を解いてくれません?」
「えー!ダメだよ!まだ終わってないのにぃ」
「終わる?何が」
「そりゃもちろん…」
呪霊が男の頭を鷲掴みにした。
「脳みそぐちゃぐちゃの刑でしょ♡」
余程その表現が気に入ったのか、呪霊は数度小さく繰り返して笑いを大きくした。
「私は先輩に聞いてるんですけど」
「…私も解きたいけど、解きたくない」
「じゃあ殺しますね」
彼女を殺せないことが分かっているからか…。
はたまた本気で殺そうとしたのか…。
鈴木さんは高専卒業以来手入れを怠り、唯一のものであると言っていた呪具を勢いよく投げた。
先端に付いている分銅は鈴木さんの手首のスナップによって回転速度を早め、中程度の長さを誇る本体は槍のように飛ぶ。
煮ても焼いても食えなそうな彼女は、私たち一同の予想通り難なくそれを素手で受け止めた。
けれど、その仕草の余裕さとは裏腹に彼女は絶望を顔に表した。
「…なんで先輩がそんな顔をするんですか」
「…だって、こ、」
「運ですよ」
まるでこの世が全て”それ”でまわっているように、鈴木さんは言う。
「生きるか、死ぬか…全ては運で決まるんでしょう?」
鈴木さんの術式の影響もあるのだろうか。
「先輩がそう言ったのに……その顔は流石にどうかと思いますけど」
”それ”が鈴木さんの運命を変え、自戒を生み、彼女と鈴木さんの間を切り裂いたものであることは、2人を除いて誰も…ここにいる誰もが知りえないものだった。