第48章 緊急事態
八乙女さんへの信頼が、安心感に…。
その安心感を裏切るようなことにならなければいいが。
『棘先輩の偵察も終わったから、これから先に進もうってなってんだけど。電波がいつ切れるか分からないから…』
「ちょっと待って下さい」
何と言っても、タイミングが悪い。
沖縄という立地の悪さ、五条さんがいない今…。
生徒達で抱えるには情報が少なすぎる事態。
優れた大人の介入が望まれる。
「行動に移る前に5分程時間をください」
『いいけど…何すんの?』
「…助けを呼んでみます」
『マジ!?』
「確証はありませんが、何とかします」
『待ってる待ってる!んじゃ、また連絡して!』
…まさか、再びあの人に連絡する日がくるなんて。
昔の連絡先が今も使えるなんて思っていないけれど、これしか方法がない。
プ…プ…プ…プルルルル…
『…もう連絡しないでって言いましたよね』
「ええ。ですが、緊急事態でして。貴方の力を借りたい」
『冗談でしょう?私はとうにその世界から逃げたのに』
「ええ。ですが、今沖縄にいますよね」
『…』
「だから、貴方にしか頼めないのですよ」
彼女に電話を切られないように。
ゆっくりと話す。
「八乙女さんを覚えてますか?」
『…2個上の?』
「ええ。彼女と呪術高専の生徒が領域内に閉じ込められました」
『領域?…はぁ、もう。そういう話はお断り。切りますよ』
「待って下さい」
彼女に断られたら、方法がない訳では無い。
けれど、彼女の術式はきっと役に立つはずだ。
『…先輩が呪術界に戻ったことは噂で聞きました。凄いと思います。ですが、私を巻き込まないでほしい』
彼女も私と同じく呪術界に絶望し、彼女は卒業以来全く別の仕事をしている。
そんな彼女にこれ以上お願いするのは胸が痛むが…。
「そこをなんとか。生徒に手を貸してほしい」
『い・や・よ!』
「…領域を作ったのは千夏さんです」
『は、はぁ?あの人…そっち側になったの!?』
「違います。理由は分かりませんが、彼女はそんな人間ではありません」
『…先輩が行けばいいじゃないですか』
「行きます。でも、時間がかかる」