第48章 緊急事態
「これって帳…だよな」
「多分。でも、そんなことは問題じゃなくて…」
「この中に千夏さんがいることがやばいんだよなぁ?」
真希先輩の言葉に頷いて返す。
この帳は少なくとも沖縄の領土14分の1を占める大きさ。
大きな道路や、住宅地、スーパーなどが含まれ、なぜか一般人が普通に出入りしている。
交流会のときのものと同じなのだろうか。
「八乙女さん、マジ何してんの?」
「それが分からないからヤバいって言ってんでしょ」
「ああ…ごめん」
帳の中に入らなくてはいけないことは分かってる。
でも、体が拒否する。
『ねえ、やめてよ!!』
また昔みたいに…。
人の声が届かないほど、狂っている姿は見たくない。
「じゃあ、入るぞ…」
「おう」
「…釘崎、大丈夫か」
「…平気」
「ツナマヨ?」
「大丈夫です」
私は…また。
守られる存在になってしまう。
「これは…帳じゃない…」
伏黒恵は思わずそう零した。
上を見上げれば、豪華絢爛、美麗荘厳…。
そんな言葉がぴったりな、空まで伸びる建物。
まさに呪いの場であることを示すように、色彩は奇抜でどす黒く、しかしそれでも美しさの残る外観であった。
しかし、少し視線を下げると、そこには老若男女様々な人間が横たわり、車、自転車、その他もろもろが投げ捨てられたように散らばっていた。
所々では、その体が一瞬にしてきれいさっぱりなくなるが、次の瞬間にはまた新たな体がそこに挿入されていく。
「領域内だ…!」
全員の顔つきが変わる。
「電波は…生きてるな」
(領域内で電波が生きてる?)
そんなことがあり得るのだろうか。
領域というものは中から外への移動を嫌う。
普通は遮蔽されるはずなのに…。
「とりあえず、外には…出られない」
「うわ…あんな遠くに」
俺たちはまだ1歩しか中を進んでいないはずなのに、この領域の端ははるか向こうにある。
幻覚でないことは、棘先輩が確かめてくれた。