第48章 緊急事態
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二泊三日の修学旅行(仮)。
その二日目には、普通の高校生らしい観光名所を回り、美味しいものを食べ、ホテルに戻る予定だった。
その予定が崩れたのは昼下がり。
遅めの昼食にソーキそばを食べて、虎杖と釘崎が肉の柔らかさに感動していたのをよく覚えている。
「私らで対処できると思うやつがいたら、手を挙げろ」
現実的に考えて、この島には1級術師が都合よく何人もいるとは思えない。
だから、せめて一般人に被害が出ないように俺らが無理矢理にでも禪院先輩の声に手を挙げなくてはならないだろう。
しかし、目の前のこの状況に―――――
誰一人手を挙げることはおろか、口を開くこともできなかった。
―――――1時間前―――――
「「「…」」」
「「…」」
棘先輩が食後のデザートを頬張った瞬間に、俺らの動きは同時に止まった。
唯一手を動かし続けていたのは禪院先輩だが、先輩も俺らの様子を見て同じように固まった。
「どうした、お前ら…」
どうし、たのだろうか。
4人で顔を見合わせて、この謎の圧迫感を表す言葉を探した。
「呪いか?」
「…おかか」
「なんつーか…なぁ?」
「…気持ち悪い」
内臓を触られているようなむずがゆさ。
体の奥の奥に何かがいるみたいだ。
「野薔薇…どうした?」
今にも吐きそうに口を押える釘崎。
虎杖が続いて心配しても、茶色の髪を揺らすだけ。
「…やばいかも」
「えっ!?吐く!?吐くなら…えぇーっと…!」
虎杖が食べかけのデザートを、すべて釘崎の前から避けて。
そうしている間に、釘崎は言葉をつづけた。
「伏黒、アイツに連絡とって」
「アイツって…八乙女さん?」
「そう。私は位置を…」
やばい。
この言葉が本当に意味するところを知ったのは、この数十分後。
釘崎の携帯に示されていた、赤い点……すなわち、八乙女さんの携帯がある場所に向かう途中だった。