第48章 緊急事態
「ふぃ…気持ちいぃ…」
やっぱり旅行と言ったら朝風呂に限る。
そう偉そうに思いながらも、朝風呂を経験するのは初であった。
「千夏さん」
「ん…真希?」
「一緒に…いいですか」
「もちろん」
スレンダーなボディーを少し隠しながら、くつろぐ私の横に体を沈めた真希。
「気持ちーねー」
「…はい」
「…ああ、これ?」
彼女の視線が指摘したソコに手を伸ばす。
「これはねぇ…初めて私が戦った日に得た傷」
背中から右肩に伸びている細長い切り傷の跡。
今の私からすれば大したことない傷だけれど、当時の私……平凡な中学生を生きていた私にしたら大層な傷だった。
「真希の体は綺麗だね……あ、嫌味じゃないよ」
「…ありがとうございます」
そう言えば、皆と沖縄に来た時も、同じように硝子にも指摘された気がする。
私が怪我した時には悟もその場にいたから、勿論悟もその傷をしっているのだけれど、入浴後に”どうして五条も知ってるの?そういう関係?”と詰め寄られたんだっけ。
朝日が水面で乱反射する。
ちゃぽ…ちゃぽ…と水が鳴き、その音はくぐもって反響した。
「どうしたの?なんか変だよ」
「いや、その…少し考え事があって」
「…聞こうか?」
「……いいですか?」
真希は歳の割に自立した人間だし、頭もいいから大抵の悩みは自分でどうにかしてしまう。
そんな真希がこうして”私に”話そうとするなんて余程のことだ。
「私の夢は無謀で…独りよがりでしょうか」
「違う」
即座に否定すると、真希は少しだけ笑って小さく頷いた。
「真衣となにかあった?」
「…そう見えます?」
「女の勘」
「なんすかそれ…」
詳細は知らないけれど、真衣と真希が交流会で交わったことは聞いている。
…真希の圧勝だったらしいけれど。