第48章 緊急事態
「そ、そんな…風に思ってな」
「もう慣れたんでしょ?分かってます」
あ、あ、あ…。
呆れられてる…。
「ごめん、恵…その、何に謝ってるか分からないんだけど…ごめん」
「…俺の親は俺と津美紀を残して出ていきました。どこで何をしているのか知りません。生きているのかどうかも…知りません」
恵の親…。
確か父親が禪院家の方で真希と同じように術式が使えないとか。
津美紀さんのことを調べるついでに知ったのだけれど、その人は既に亡くなっていることが名簿に書いてあった。
悟にも聞いてみたけれど、たしかに亡くなっているとのこと。
どこでその命が果てたのかは知らないし、悟も知らないと言っていたが、かなりヤンチャな人生を送っていたらしいので、勝手に素朴な死に方はしていないと思っている。
「父親はともかく、母親は特に出生が特別な訳ではありません。両親共々自身の家とは縁が切れていたらしいので、この世で母親を知るのは父親…そして、俺と津美紀だけ」
恵が私の腕を掴む。
「人は…死にます」
「…知ってる」
「忘れられたら、それは死と同じです」
「…そうだね」
言わずもがな、私は親と縁が切れているし、この世に功績を残した訳では無い。
普通の人間だ。
「恵は……私に生きてて欲しいの?」
「当たり前じゃないですか」
「当たり前じゃないよ」
「…」
それが当たり前の世界に生まれたかった。
今からでもそっちに行きたい。
「私も死ぬのは怖いけど、慣れた方が楽なの。それに、死んでも恵みたいに…私の死を悲しんでくれる人が、私のことを覚えてくれてたら、それで満足」
「…それじゃあ、俺は八乙女さんが死んだらすぐにその存在があったことを忘れることにします」
「はぁ?ひっど」
だって、と恵が少し笑って続ける。
「そうしたら、八乙女さんは意地でも生きようと思ってくれますよね?」
「…」
「口、だらしないですよ」
…なんて男の子だ。