第48章 緊急事態
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「…何ですか、コレ」
観光地を楽しみ空が赤くなったことを理由にホテルへの道を歩んでいた時、彼から漏れた素朴な疑問はこの現状に適していた。
(これはかなりマズイな…)
黒服の男女、計4名に囲まれた私達は車通りが少ないこの大通りで、明らかな敵意を向けられていた。
その対象は恵と考えるより、私だと捉える方が現実味がある。
簡単に応援が来ないこの島で、しかも周りには術師といえど、15.6の保護対象。
そして、私は未だに以前のように術師として戦える体を取り戻していない。
「逃げるよ」
その判断に至るのは簡単なことで、しかしそう簡単に逃してくれるわけがない。
そのため。
「や、お…!?」「暴れないで」
恵に抱きついて、空に昇る。
と言っても、耐久力は無いのである程度まで昇ったら落下するだけ。
耐久力をもたせると、それは天気を変えるほどのエネルギーを集めてしまうため、恵が耐えられるか不安、そしてまだまだ続く旅行に影響が出る。
落下といっても全く危険はない。
所々で電荷の反発による足場を作って、適当な場所に降りるだけ。
「心臓に悪い…」
「ごめんごめん」
さぁて。
彼らは一体どうしたものか。
「あの人達、いつから…」
「大丈夫。恵はそんな難しいこと考えなくていーの」
そして、私もあの人達のことは考えたくない。
今までの経験から、恵達に被害がいくとは考えられないし、明日から私が別行動を取ればいい話。
学長に伝えた方がいい気もするけれど、無駄な心配はかけたくない。
「よし、帰ろう!今夜はみんなで枕投げ、だぁ…?」
遊んで疲れた体を無理やり奮い立たせてみたのだけれど、恵はここ一番の不機嫌顔。
「どうした?そんなに怖かった」
「…違います」
「…御手洗?」
「違います」
恵は頭を抱えて、近くにあったベンチに腰かけた。
「…自分の命を軽く見積もりすぎです」
「…私?」
「他に誰がいるんですか…」
その言葉に怒りは感じられなかった。
感じたのはそれよりも少し難しい、呆れの感情。