第6章 変わらない優しさ
(ま、体力勝負に持ち込まれるなんて、ありえないだろうけど)
その前に瞬殺。
その力が千夏にはある。
ベッドに運び、ブランケットをかけてあげる。
(やっぱりナイスガイな俺!)
その流れで、沖縄に行くことを置き手紙として残すことにした。
お土産を買ってこなかったら怒られるだろうから、希望を取ることを忘れずに。
「…ん…」
(そういえば、千夏って寝相が神がかってるんだっけ)
前に硝子か歌姫のどちらかが言っていたような気がする。
千夏の顔を覗くと、勝負に勝ったような満足気な顔を浮かべていた。
アンパンマンみたいなパンパンに浮腫んだ顔で。
「なんの夢見てんの?」
つんつんと頬をつつくと、すごい勢いで押し返してくる。
ほんっとうにパンッパン。
こんなことを普通の女子に言ったら、殺されるかもしれない。
「…さと、る」
瞬時に手を引っ込めた。
しばらく観察すると、それが寝言ということが分かり、胸をなでおろした。
(…夢の中では悟って呼ぶのな)
毎日、毎日、毎日。
あんなに好き好きオーラを出してくるくせに、俺のことは苗字で呼ぶ。
しかも、1度も好きと言ってこない。
「…もしかして、俺から言われるの待ってたりする?」
言ってみて後悔した。
千夏はそんな乙女ではないと。
千夏は誰よりも命の儚さを知っている。
その事に誰よりも胸を痛めている。
それが八乙女千夏という女だ。
そして、余計なことに気を遣うのも、千夏の特徴だ。
俺は見返りなしに千夏を救いたいと思っている。
千夏に普通の生活をしてもらいたい。
そのために俺は使えるものは全て使おうと思っているが、そうすると千夏が遠慮する。
いらない遠慮ほど、邪魔な気遣いはない。