第6章 変わらない優しさ
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『もうボロボロ。さっきまで泣きじゃくってたけど、今は私の膝の上でぐーすか寝てるよ』
「…頼むぞ」
『任せなさい』
ブチッと言う音が鼓膜を震わせ、携帯をベットに投げた。
天内の護衛という何とも面倒な任務のせいで、今夜は長いものとなりそうだ。
傑は飲み物を買いに、天内は黒井と一緒に風呂。
1人残された俺は椅子の腰かけ、天井を見ていた。
シミが顔に見えてしまう現象に名前があったような、なんて考えながら思い出したのは、昨夜のこと。
昨夜、9時30分頃。
荷物を取りに帰った時、千夏の部屋を訪れた。
鍵がかかっていなかったので、簡単に侵入できた。
「…色気のいの字もねぇ」
床にへそを出して大の字に寝っ転がり、片手には本、もう片方には夜蛾先生がくれたと言っていた人形。
オマケにヨダレを垂らしている。
(この状況で鍵かけてないとか、バカすぎだろ)
ドアに鍵をかけ、千夏の足の間にしゃがんだ。
「狼が来たら襲われるぞー」
そっとお腹に触れ、服の中に手を滑り込ませてみた。
ゆっくりと動くお腹は温かくて、柔らかかった。
千夏は気持ちよさそうに寝息をたてている。
これ以上手を上に動かせば、起きるだろうか。
「ん……」
千夏は寝返りを打ち、俺はぴょんと跳ねて立ち上がった。
(…はいはい。邪魔者は消えますよ)
今この場に狼の入る隙はないようだ。
両手に握られていた物を奪い、床に投げる。
「よっ…と」
千夏の体は死んでいるかのようにだらんとしていて。
そして、温かかった。
『今、お菓子食べるな。私の前で食べるのも、私に勧めるのも禁止。ダイエット中なんだよ』
この軽さはダイエットの効果なのか。
または、元々このくらいだったのだろうか。
どちらにせよ、体力勝負に持ち込まれたら、千夏は真っ先に死ぬだろう。