第47章 修学旅行
「こんな時にですけど…ひとつ聞いてもいいですか」
恵がおもむろにベットに顔を預けた。
そして、月に照らされた顔がこちらを向く。
「死んで勝つ、のと…死んでも勝つ、のは…やっぱり違いますか」
死んで、勝つ。
死んでも、勝つ。
「…私は恵が望む回答をあげられない」
きっと昔の私は「死んで勝つ」を選んでいたと思う。
勝つことは周りを守るということだから、勝利は絶対に必要。
でも、勝利の世界に自分が存在してようが、してまいが、どうでもいい。
痛いのは嫌いだし、瀕死の状態になったのならそのまま死にたい。
でも、少し前の私はその勝利の世界に存在していたいと思っていた。
そして、いつ訪れるか分からない次の戦いまでの間、大好きな人達と交流していたい、と。
だから、もし命をかけた戦いがあったとしたならば、自分の命が尽きるまで、敵に拳を振るって抗っていただろう。
そして、今の私は…。
「…最近ね、ずぅっと、私を殺したいって憎む人がいることを知ったの。だからなのか…今はそれほど全力で生きたいとは思ってない」
「でも、」
「うん。分かってる」
恵の頬を撫でると、恵はいつもの不機嫌顔で手を払い除ける。
「ひとつ、面白い話をしようか」
それにひと笑いして、私は体を起こした。
「…禪院家相伝の術式の1つ」
「十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)、ですか」
「そう。君の術式だ」
私の纏う空気が変わったことを即座に察知した恵の目付きが変わる。
「私の姉、八乙女千春は特殊な人でね。詳しくは言えないけど、私は彼女のおかげで様々な術式を使うことが出来た」
やっぱりこの仮面は良い。
あっという間に涙を止めることができるから。
「しかし、流石に血の濃い御三家相伝の術式は厳しいようで。その術式らに関して、私はその一部しか使えなかった」
大分自分の情緒が落ち着いてきたところで、真剣そうに見えるマヌケ顔にデコピン。
彼はおでこを労りながら、私を睨んだ。