第47章 修学旅行
「美味しいね」
「そうですね」
「サラダ取り行く?」
「食べますか?」
「うん」
「じゃあ行きます」
「はひはほー(ありがとー)」
とっても優しい彼との食事後、私たちが向かう場所はひとつであった。
「…まだ、起きないんだ」
「…まぁ」
恵のお姉さんの元へ。
ベットから取り出した手を握ると、それはやはり温かくて。
けれど、決して目覚めているとは言えない状況に、酷く落胆を覚える。
「どうしました」
「…いや、何でも」
つい押えてしまうような頭痛に耐え忍ぶ。
つい零れてしまいそうな本音を抑え込む。
「…早く目覚めて、私とお話して欲しいなぁ」
曇りひとつない希望を乗せて、私の言葉は部屋中に拡散された。
ガタッと、恵が近くの椅子を引っ張り腰をかける。
膝立ちの私が横を向くと、彼は産まれたばかりの赤子を見るように優しく微笑んだ。
「俺、何でも聞きますよ」
思い返せば、恵との出会いは散々なものだったが、かなり濃い時間を過ごしてきた気がする。
また、私達の破局を聞いて、目の前で涙を流してくれたのは彼であった。
それ故に、彼の柔らかい声に乗せられて体が震えそうになってしまう。
この人種は危ないと、私の本能が危険信号を出していた。
「…何でもって、何が聞きたいの?」
「…はぁ。そういう事じゃなくて。貴方の交友関係は大体知ってますし、その皆さんが交流会後の対応で忙しいですよね」
「よく知ってんね」
「…だから、八乙女さんが悩んでるなら吐き出す場所にくらいなりますって言ってるんです」
こんなこと何度も言わせないで下さい、と怒り出した恵。
(だから、ダメなんだよ…)
恵のことは信用してるし、頼りがいのある人だと思っている。
でも、それ以上に大切に愛でる対象であって、これ以上線を越えられると恵の幸せを奪ってしまう。