第46章 舞文曲筆
「どうしてお酒を飲んだの?」
頭を上げず、そのまま考える。
この質問には答えられそうになかったからだ。
僕はお酒が嫌い。
不味いし、すぐに酔ってしまうほど弱いから。
でも、それでも僕はたまにお酒が飲みたくなる。
お酒は行き詰まったときに強制的に身を潰してくれるものだから。
ここまでは千夏にも話したことがある。
僕がこう言うと『じゃあ、悟がお酒を飲まないでいいように、私が癒してあげるね』なんて可愛いことを言ってくれたものだ。
「…どうしてわざわざ私に会いに来て、お酒を飲んだの?」
それは。
「私は…悟とあの家で会いたくなかった」
恐る恐る顔をあげれば、千夏がソファに座りながら七海の手を握っている。
七海はだるそうにしながらも、どちらの味方でもないことを示すようにそっぽを向いていた。
「…1人であの家にいることに、折角慣れてきたのに」
あの家を借りた時、僕は千夏の帰省に胸躍らせていた。
思い出しては、今の現状に反吐が出る。
「ごめん」
「謝って欲しいわけじゃない」
千夏の口が歪んだ。
そして、大きく息を吐いて言う。
「別れを選んだなら…それなりの対応をしてよ…」
”────!!”
頭が…痛む。
たんこぶのせいでも、二日酔いのせいでもない。
「責めてるわけじゃないよ。でも…悟が大好きなのに、恋仲でいられないのは辛いの…。今まで通りでいられると、余計に…!」
こっちだって、そうだよ…。
でも、千夏が無理して体を痛めてる姿を見ると、傍に居たくなっちゃうんだよ。
「っ…」
じゃあ、”俺”はどうすりゃいいんだ。
”殺せ。できぬなら、他にやらせるだけだ”
”彼奴だけは消さねばならない。何としてもだ”