第46章 舞文曲筆
「…大丈夫。昨日のことはもう…ね?」
カチャ。
七海が前に紅茶を用意してくれた。
「私は外に出てますから。2人でお話ください」
「七海ちゃん!どこ行くの?」
「適当に外に出てます」
「さっき、一緒にいてくれるって言っ」
「言ってませんよ」
「…ばーか」
「私がいたら、素直に話せないでしょう?」
「最初だけ。ね?最初だけいてよ」
「…分かりましたよ」
なんだか、二人の会話が薄らとしか聞こえてこなくて。
椅子に腰かけても、体がふわふわしていた。
「…ちな」
「ひとつだけ聞きたくてさ。いい?」
「……もちろん」
あー。
僕から話しかけられるのを、ばっちし避けてる。
せめて。
せめて、謝りたいのに。
「昨日のことだけど…。お酒飲んだからあんな風になっちゃったの?それとも……私が恋人じゃないからあんな事したの?」
昨夜に戻れるのなら、今すぐ戻って自分に酒を飲むなと言いたい。
そして、今すぐ千夏から離れろと、忠告したい。
「…ごめん」
僕が言いたいのは、この「ごめん」じゃないけれど。
「実はなんも覚えてなくて」
千夏の目が少し大きくなる。
「…千夏に酷いことしたのは、朝起きてから気づいて。自分がお酒を飲んだらどうなるかは分かってたけど、まさか千夏を襲っちゃうなんて。考えてもなかった」
言い訳に過ぎないことは自分が一番分かっている。
弁明してるわけじゃないけど、言葉をどう使っても聞こえが悪くなる。
「…本当に申し訳ない」
頭をテーブルスレスレまで下げて、何度も心の中でこの言葉をリピートした。
ごめん、千夏。
本当にごめん。
「…じゃあ、悟は」
千夏の少し裏返った声が部屋に響く。