第46章 舞文曲筆
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仕事を終わらせて、21時きっかりに七海の住処にやってきた。
部屋の位置までは知らないので着いた旨を連絡すると、部屋着姿の七海が迎えに来てくれる。
「…千夏は?」
「夜食を」
「そっか。僕のこと、なんか言ってた?」
「…」
「…悪い。今のは聞かなかったことに」
「いつも通りですよ。惚気られて……まぁ、そんな感じです」
惚気なんかするはずないのに。
なんて素晴らしく気遣いができる男なんだろう。
これでいて色恋沙汰の噂がないなんておかしい話だ。
七海の部屋は本当に七海らしくて。
全体的に色味が統一され、オシャレなインテリアばかり。
ほのかに香るファストフードの匂いが似合わない。
リビングのドアを開けると、真っ暗な部屋で映画を見ている千夏がいた。
その手にはポテト。
視線はパソコンに釘付けだった。
『ははっ、そんなことあるわけなけないだろぉ?』
爆音に耳を塞ぎたくなるが、七海は特に気にした様子はなく部屋の電気をつけた。
「目、悪くなりますよ」
「っそ」
パソコンを閉じ、伸びをした千夏。
体をバネのように2度動かすと、ニッコリこっちを向いた。
「やっほ、悟」
彼女の声、表情、仕草に毒はない。
何故?
「…ん、どーした?」
「え、いや…」
「七海ちゃんの家、凄いよねー。このソファ、フワッフワなの」
座ってみなよ、と手招きされて恐る恐る従えば、確かにフワフワで。
えへへ、と千夏は笑う。
「…えっと、千夏…あのさ」
てっきり気まずい雰囲気が流れたり、拒絶されたりするかと思っていたけれど、それと真逆の反応に戸惑いを覚える。