第46章 舞文曲筆
「…とりあえず、今日は寝ませんか?」
今回の件について全体像を把握したので、そんなことを提案した。
彼女は頷き、とりあえず何か食べたいと言い出した。
夕飯なら残っていたのでそれを準備すると、彼女は数時間前と同じく美味しそうに頬張る。
「…なんで笑ってるの?」
「笑ってましたか?」
「うん。変なの~」
傷ついた貴方の前で笑うなんて場違いだと分かっているけれど、忙しい硝子さんの次に私を頼ってくれた事がこんなにも嬉しくて、頬が緩んでしまう。
不謹慎だけれど、昔、あの時、千夏さんが笑っていたのもこういう理由だったのではないかと、ありもしない妄想をしてしまった。
「さてと。ご飯も食べたし…」
彼女は食器を洗い終わると薬局で得た袋の中に手を突っ込み、 高さ15センチほどの箱を取りだした。
中身は分からなかったが見るものでもないので、彼女の寝る場所を確保することにした。
「ねぇ、七海ちゃん」
「はい」
寝る場所を整えていた私の背中に乗ってきた彼女。
「私のこと大切?」
「…まぁ、大切ですよ」
突然何を、と思いながらもシーツを伸ばす。
「何しても、私のこと嫌いにならない?」
「…貴方が貴方を失わなければ」
「…そっか」
いい加減離れて欲しくて背中を垂直にすれば、彼女も離れざるをえない。
「急にどうしt…」
振り向けば…彼女からの口付けが待っていた。
固まる視線、強ばる筋肉。
フリーズした思考が戻る前に、自分の口に液体が流れ込んでくる。
1度喉を鳴らすと我に返り、少し強めの力で彼女の体を突き飛ばした。
「ゴホッ…ゴホ…」
少し気管に入ったのか、溺れたような感覚であった。
彼女は長い髪を垂らしユラユラと揺れている。
「なんで、すか、これは…」
甘ったるさと、キツイ酒のような鋭さがあって…。
「こうでもしないと飲んでくれないと思って」
表向きに座っていた私の足の上に跨ってきた彼女。
顔はニヤッとしていて、少し苦しそうであった。
「離れてください」
「やーだっ」
「っ…」
再び彼女が口付けてこようとしたので、慌てて体を押し返すと、その体がビクンと反応する。