第46章 舞文曲筆
『死ね』
嫌だよ。
いつもならそんなことを言えるのに、今は言う気力も、言おうという気持ちも全くない。
『昔に言ったよな。無理矢理襲ったら殺すって』
「…言い訳だけど、記憶が無いんだよ」
『大体、なんで飲んだわけ?前に千夏の前では絶対に飲まないって言ってたじゃん』
それは仕方ないじゃないか。
…いや、他にも方法はあった。
でも、僕は弱いから。
酒に頼るしか無かったんだ。
『…まぁ、何でもいいけど。私も探してみる』
「…もし繋がったら、僕が話したいって言ってるって」
『はいはい』
話がしたい、なんてどの口が言っているんだ。
ああ、もう本当に…最悪だ。
カランと携帯が床に落ちる。
下半身丸出しの男が部屋で項垂れているなんて気味が悪いけど、しばらく動けそうになかった。
ブブブブ…
『七海の所だって』
「…そっか」
『五条の予想は正しかった。今は話したくないってよ』
…本当に最悪だ。
軽く礼を言って電話を切り、とりあえず水を1杯飲んだ。
(…どうしよう)
謝る他に出来ることはあるだろうか。
好きなものを買って機嫌をとるのは絶対に違うし、話したくないと言われて何もしないのも違う。
けれど、謝ったとしても僕側の気持ちが軽くなるだけだ。
それに、避妊具なんてものは付けなかっただろうから、万が一の場合辛くなるのは千夏だけ。
千夏が望めば避妊薬を手に入れて………じゃなくて!
(そういう話じゃないだろ…)
目に見えることについて考えても、意味が無い。
失った信用をどのように取り返せばいいのか。
言葉にするととても利己的に聞こえるけど、要はそういうことだ。
「…あ、七海」
『…話は聞きました。その…今彼女は…話せる状態じゃないです』
先程硝子に聞いた通りだった。
「いつならそっち行ってもいいか聞いてもらっていい?できるだけ早くがいい」
『…………今晩な、ら』
「…分かった。21時に行く」