第46章 舞文曲筆
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「ん…」
頭が痛い。
内部も、外部も。
「いっ、たいなぁ…」
鉛のように重い体を起こして、頭を撫でるとそこにはたんこぶが出来ていた。
たんこぶが出来るなんていつぶりだろうか。
「…?」
それにしても、ここはどこだ。
ああ、キッチン…。
キッチン?
「…ん」
自分の姿も異常。
Tシャツ1枚に、下半身は露出している。
確か昨日は我慢できなくなって、千夏に会いに来て…。
酒を飲んで…。
ハッとなって周りを見る。
フローリングには白と透明が混じった液体が点々と…。
最悪の結果が思い浮かぶ。
「千夏…」
急いで立ち上がって部屋を見渡す。
どこにも千夏はいない。
別の部屋に顔を出しても、その姿はない。
「くそっ…!」
自分が酒を飲んだらどうなるか分かっていたくせに。
電話をかけても応答はない。
その場をウロウロしながら対応を考える。
浅い呼吸のまま硝子に電話した。
『…何』
また徹夜になってしまったのか、彼女はいつも以上に機嫌が悪そうだった。
「そっちに千夏いる?」
『死体しかないけど』
「何で…」
『知らねーよ。何、どうしたの?』
千夏が真っ先に頼るのは硝子だと思っていた。
もし、昨夜自分が暴走していたとしたら、野薔薇の元に行くとは考えにくい。
『…ねぇ、何?』
硝子の声に、電話が繋がっていたことを思い出す。
「…昨日、酒飲んだ」
『それで?』
僕が酒を飲んだ時にどうなるかを、硝子は知っている。
何年も前に飲んだ時には、彼女と…。
まさか、七海の所にいるのか?
『答えろよ』
ああ、電話、電話。
「…その。襲ったっぽい」
自分で言って、自分で傷つく。
いや…。
もし本当に無理矢理千夏を襲っていたら、傷ついたのは千夏の方だ。