第46章 舞文曲筆
寝返りを打ったことで、彼女の背中が外側に向いた。
体を痛めているために、着脱のしやすい服をみにつけている彼女の首元は、とても緩くなっていて、肩を出すために作られた服のようになっている。
(…最悪だ)
そのせいで少しはだけた背中に赤い跡。
位置と色味からしてキスマークだろう。
見てはいけないものを見たような気がして、サッと毛布で隠す。
キスマークごときにこんなに振り回されていることが馬鹿らしくて、自分で自分を卑下してみたが、効果は特になかった。
(でも、まぁ…)
好きな相手が自分の部屋にいるのだ。
少しくらい過敏に反応してしまってもいいだろう。
遥か前に諦めた恋だけれど、その想いがこうも再燃するなんて思っていなかった。
隠した背中をもう一度露わにさせて、跡に軽く口付けをする。
(五条さん。本当に奪いますよ)
本気でそう思っている訳では無い。
私は千夏さんが好きだけれど、五条さんの横で笑う彼女に恋をしたのだ。
でも。
正直に言うと。
少しの間でいいから。
彼女を私のものにしたかった。