第46章 舞文曲筆
「…やっぱり知りたいな。まぁ、七海ちゃんとかに話すとかでもいいんだよ?でも、そうじゃないでしょ。悟は1人で頑張っちゃうからさ…心配」
彼女は知っていた。
五条さんが抱えるものが自分が手を出せる領域にないことを。
そして、五条さんが頑なに弱みを見せない理由も。
「全部私のためだと思うんだよね。直接的じゃなくても、多分、私の利益に繋がってる。小さな選択も大きな選択も。今まで悟が選ぶことは全部私のためだった」
この時、私は五条さんから聞いていた。
というか、混乱した五条さんが勝手に話したのだけれど。
『悪い、取り乱した。今のは絶対に秘密だ。漏れたらお前を殺さなきゃならない』
今、五条さんが別れを選ぶほどの大きな爆弾が、千夏さんに…そして五条さんに迫っていた。
千夏さんの願いが叶えば、五条さんの中の呪術師と恋人の二面性が無くなって、五条さんが自暴自棄に走ってしまう。
五条さんが仮面を作り続ければ、いつかは千夏さんの我慢に限界が来る。
だから私はどちらの味方もできなかった。
「私は…ね」
「無理に話さなくていいですよ。寝てください」
「ううん…だい…じょ……ぶ」
彼女の様子の通り、この数分後には深い眠りについていた。
彼女を家に連れてきたのは特に深い意味はなく、話を聞くのに公共の場はよろしくないだろうと思っただけ。
けれど、例の事件があって相談よりも休息の方が彼女には必要になった。
彼女はかなりだらしない。
それは昔から分かっていたけれど、初めて見る寝顔の無防備さに思わずため息が出る。
(…ここまで意識されないとは)
男として意識されていないのは昔から変わらないので、今更どうこう感じることもない。
ほんのイタズラ心で彼女の頬に触れれば、直ぐに寝返りを打たれた。
(…一体何をしているんだ)
自分の行動に呆れ、ネクタイを緩めた。