第46章 舞文曲筆
交流会1日目、団体戦前────
「…はい?」
「だから、別れたよ」
五条さんと千夏さんの破局を知らされた。
「何故」
「色々あってねぇ」
2人の恋路に口を挟むなんてことはしたくないし、すべきでないことは分かっていた。
「…そうまでして隠したいですか」
「うん」
しかし、五条さんがいくら真面目な顔をしても、私は口を挟まずにはいられなかった。
「貴方のわがままで千夏さんが傷つくなら、私が奪いますよ」
ほんの冗談に過ぎなかった。
けれど、五条さんは口元を緩めずに言い放つ。
「仕方ないんだよ。これが最善だ」
違う。
五条さんが無理矢理最善にしているんだ。
けれど、そんなことは言えず、私はもう一度新聞に視線を戻した。
しかし、全く内容は入ってこない。
考えることは五条さんの気持ちと千夏さんの我慢強さだった。
五条さんはかなりの地位に立ち、実質的に彼が五条家の全てを担っている。
それなりのプレッシャーやストレスはあるだろう。
しかし、はるか昔に彼はそれを千夏さんに打ち明けないことを選んだ。
彼女が帰ってくる前に、1度五条さんは酒に頼って気持ちを打ち明けてくれたことがある。
その中には彼女の命がずっと狙われていたことや、上からの圧力や交渉内容も含まれていた。
正直、よくもここまでそれを1人で抱えたものだと感心した。
そして当時は彼女は死んだものだと思っていたから、結果的に彼女は亡くなってしまったけれど、よくぞここまで彼女を守ったものだと、ひとりの男として心を打たれた。
『千夏が幸せになるなら僕は身を引いてもいい。でもやっぱり…僕が幸せにしたいんだ』
不安、恐怖、焦りを、彼は1人抱えることを選んだ。
けれど、千夏さんはそれを知りたがった。