第45章 酒の力
酒の減り具合からして、悟にしては前代未聞の量を飲んだだろうし。
「気持ち悪くなるの分かってたでしょ?」
「…ん…千夏…」
今の悟には何を言ってもダメみたい。
抱きついてきた悟の体を上手いこと受けて、1番楽な姿勢をとる。
「…だいすき」
「…」
「ん〜…」
私に突き放されてヤケ酒に走ったのか、帰りたくないから帰れない状態を作ったのかは知らないけれど、とりあえず今は悟に離れてもらわないと。
私たちは恋人ではないのだから、こんな距離感でいるのはおかしい。
「離れて下さい」
「…なんでそんな事言うの」
「私達は恋人じゃないでしょ。体の関係も持たないって決めた」
痛む腕を使って柔らかく体を押し返す。
少しだけできた隙を上手く使ってその場から逃げ、悟が寝れるようにベットの上の洋服を退かす。
「はい、ベットに移動して。吐いてもいいから」
「…ん」
「もー…。ほら、立つ!」
こっちは体が重症なのに。
私より遥かにでかい体を支えるべく、腰に力を入れたその時。
「…吐く」
「ちょ、待っ…」
用意した袋にたどり着くまでに、少し漏れた吐瀉物。
それは簡単に私の衣服を汚す。
「全部出しな」
そんなことも気にならないほど、私は悟の介抱に必死。
自分の姿に気づいた時は正直ため息が出たけれど、嫌悪感は特になかった。
「…ほんと、ごめん」
「いーって。水持ってきたから、口ゆすいで。袋にぺってするんだよ」
昔から使っているくたびれたパジャマで良かった。
悟がくれたものだったら、もう少し取り乱していたかもしれない。
その場でパジャマを脱いで、そのままゴミ袋に。
幸い、ゴミの回収日は明日なので、袋をきつく縛って玄関に持っていった。