第45章 酒の力
「コーヒー牛乳です」
「んー…後で飲むぅ…」
降ろされたソファでそのまま寝そべる。
私と真反対の綺麗な部屋にいい匂いのソファ。
とても一人暮らしとは思えない。
「…そのまま寝ますか」
「んーん…」
「構いませんよ」
「んー…」
人様の家に上がり込んで、勝手にソファに寝転んで。
その上、毛布までかけられてしまったら…。
「起きました?」
タオルで頭を拭く七海ちゃん。
グラスをかけてない七海ちゃんは久しぶりに見る。
「…」
「水、持ってきます」
ソファに顔を横向きに押し付け、熱を冷ます。
そのまま小さく頷くと、コップを持ってきてくれて、それで喉を潤す。
「…ごめん、寝ちゃった」
「別にいいです」
「何も夢見なかった」
「そうですか」
1度眠ってしまったせいで、痛みに慣れていた体が元に戻ってしまった。
ギシギシ、ミシミシと体が鳴っているような痛みが、再び襲ってくる。
「家入さんは大きな病院に行った方が良いと言ってましたけど、行かないんですか?」
「んー。これ以上痛くなるなら行く」
「…その基準はどうかと思いますけど」
病院に行けば、どうせ即入院だろう。
何ヶ月もベットの上で過ごして、リハビリをしながら美味しくないご飯を食べて…。
そんなの絶対に嫌。
「どうなっても知りませんよ」
「…体がどうなろうと、どうでもいい。寧ろ、呪術師辞めれて好都合かも」
呪術師を辞められたらどんなに嬉しいことか。
朝、ニュースを見て出勤し、嫌な上司に鬱憤を募らせながらもやりがいのある仕事に取りくみ、ヘトヘトになって家に着いて晩酌。
こんな生活を夢見ては打ち砕かれているが、体が壊れれば夢も現実になる兆しがある。
その一方で、今もどこかで呪いによって被害を受ける人々がいると考えては後悔に苛まれると思うけれど、1度くらいそういう生活を送りたい。