第45章 酒の力
「七海ちゃん、強引すぎ!」
「そんなふうに動いたら…」
「いっ…つ」
「治るものも治りませんよ」
車に乗せられて、勝手に出発されて、体が不自由な私が逃げる暇はない。
「ねぇ、本当に家行くの?」
「はい」
「七海ちゃんの?」
「そう言いましたよね」
「本当の本当に?」
「はい」
「私が行くの?」
「はい。しつこいですよ」
「しつこいって…。もういいし!」
外を見る。
薄らと写る七海ちゃんの横顔が恨めしい。
そして、淡々と流れるよく分からないクラッシックが会話のない車内を唯一明るくする。
~♪
「…あれ。これってクラッシックじゃない」
「今気づいたんですか」
これははるか昔に、七海ちゃんと灰原を始めとした人達に勧めたゲームミュージック。
「…何でしたっけ。これは主人公が目覚めた時の音楽ですか?」
「そう、だけど…」
何でそれを七海ちゃんが覚えているのか。
あんなに興味無さそうな顔をしていたくせに…。
「あぁ、泣きそ」
「はい?」
「七海ちゃんが…七海ちゃんじゃない」
「…」
首から力を抜いて目を閉じる。
今、隣にいるのは七海ちゃん。
いつもはツンとして感じが悪いけど、たまに来る素直さが今来ただけ。
それにしても本当にずるい。
心身ともに疲れている時に優しくされたら、涙が滲んでしまう。
途中、コンビニに寄って七海ちゃんが色々と買って。
それを待っている間に私は寝てしまって。
車に揺られていると、いつの間にか七海ちゃんの家に着いていた。
現状位置が分からず、1人で自由に動けない私は、七海ちゃんの指示に従って動くしかなく、寝ぼける体で七海ちゃんにしがみついて移動を楽にした。