第45章 酒の力
「でも、貴方達は例外。普段仲睦まじい姿を見せつけられるのもイラつきますし、関係が不穏の時に気持ちを隠している姿も見ていてイラつきます」
「…なんかごめん」
「謝ってくれなくて結構です。でも…」
やばい。
七海ちゃんがマジでキレてる。
灰原が死んでしまったときもキレられたけれど、その時と同じくらいの剣幕だ。
「とにかく、行きますよ」
「え、どこに」
「私の家です」
立ち上がるように手を差し伸べられたけれど、掴むわけない。
「い、行かないよ」
「今夜何かご予定でも?家入さんから絶対安静だと聞かされていますが」
「予定は無いけど…。悟が女の子の部屋にいるのは嫌だから、私もそういうことはしない」
「相手は私ですよ?」
「…うーーーん」
「まさか、意識してるんですか」
「してないよ!」
あ、マズイ。
完璧に乗せられた。
「では、行きましょうか」
「あ…痛いって!」
腕を掴まれて、中々強い拒否をしてしまった。
けれど、こんなものでは七海ちゃんは怯まない。
「すみません。では、こちらで」
「んっ…!」
軽々しく私を担ぎ、そのまま歩みを進めた。
移動が格段に楽になったけれど、全く喜べない。
(こんなの、悟との仲が悪化するに決まってる…!)
それもそのはず。
はるか昔に悟と約束したのだ。
絶対に男と同じベットで寝ないこと。
同じ部屋で泊まるのもなし。
体も触らせたらダメ。
心臓の音を聞かせるのも無し、と。
この中に男の部屋に行くのはダメという約束はないけれど、年をとった私が少し考えれば、それもあまりよろしくない事だと分かる。
策士(私が馬鹿なだけ)の七海ちゃんにはめられて。
私は半ば強引に連れ去られた。