第45章 酒の力
「…」
「あーあー。2人ともやめろ!こういう空気、苦手なんだよ!」
あの恵が私達のことで涙ぐんだなんて、正直それを目の前にしても信じられない。
私までぐずってきた。
「八乙女さん達…別れちゃったんだ」
「うん。お互い気持ちが冷めたわけじゃないよ。かなり…色々あって」
「おい、これ以上はやめろ。マジで伏黒が泣く」
「泣かねーよ」
この”かなり”というのには、本当に色々と含まれる。
例の暗殺計画は”かなり”の目に見える部分で、それに包まれた核は私ですら知らない。
悟が話してくれればいいけれど、彼の立場的に話せないことも多いのだろう。
「…五条先生、そんなこと一言も言ってなかったのにな」
「仕方ないよ。別れたのだって…まぁまぁ前だし。悠仁は知らなくて当然…」
あれ。
ちょっと待って。
悠仁が生きていたことを知ったのは午前中。
ワゴンの中に入って、豪快に登場してきた。
そのワゴンを持ってきたのは誰?
「…ねぇ、悠仁」
「ん?」
「…悠仁は死んでた間、どこにいたの?」
「なんか、すっげー奥の部屋!今でも1人じゃそこ行けないくらい」
いけない秘密を暴いているみたい。
体が震えてきた。
「じゃあ…誰と行ったの?」
「五条先生!」
五条、先生…か。
自覚はなかったけれど、この時かすかに笑っていたようだ。
後に野薔薇にキモかったと言われた。
「…なんだ。悟、ずっと…知ってたんだ」
「…あれ、もしかして俺マズイこと言った?」
「ううん。それで、知ってたのは悟だけ?」
悠仁の顔が引き攣り、その上には汗がチラホラ見られるように。
「…あと、伊地知さんと」
「と?」
「ナナミンとは、一緒に任務行きました」
「ナナミン…ああ。七海ちゃんね」
「…スンマセン。コロサナイデ」
どうやら、かなりの殺気が出ていたようで。
殺気なんか出していたつもりはないし、そもそも怒っていない。
私だって傑のことは隠しているし、主犯の悟はきっと私のことを思いやって隠していたはずだ。