第45章 酒の力
先程、野薔薇から恵の部屋にいるとの連絡があったので、私は上半身が動かぬように注意してゆっくり歩いて向かった。
腕を動かすと叫びそうになるので、ドア前で声を出して呼び出す。
「おー、八乙女さんじゃん!どしたの?」
チーズたっぷりのピザをもぐもぐと食べながら、笑う悠仁。
「…ん?俺の顔になんかついてる?」
「…いや。部屋入っていい?」
「んっ!いーよー」
ごく普通に悠仁が暮らしている。
なんで皆は普通でいられるの?
「変な歩き方」
「どーしたんすか、その動き」
「ちょっと…筋肉が、ね」
悠仁が貸してくれた椅子に腰かけて、一息ついた。
「皆、色々とお疲れ様」
「八乙女さんもお疲れ様ー!ピザ食べる?」
「…ううん、いらない。ありがとう」
悠仁が分かりやすくしょぼくれる。
悠仁がここにいることに対する戸惑いが顔に出すぎたようだ。
でも、仕方なくないか?
「野薔薇、お話はまた今度にしよう。私、今日は休みたい」
「いいよ。明日とか?」
「うん。部屋行く」
「分かった」
悟の言葉に惑わされて、予定まで変えちゃって。
何をしてるんだ、私は。
「…」
やっぱりピザ貰おうかな、なんて考えていると、ふと視線を感じた。
負傷した恵がジト目で見てくるではないか。
「あ、そうだ。皆に言うことがあって」
この話は最低でも恵には伝えなくてはならない。
いずれ伝わるだろうけれど、こればかりは直接言いたい。
「私、悟と別れた」
「「「!?」」」
3人ともこの手の話題が来るとは思わなかったのか、私達が破局したこと自体に驚いたのか。
3人の動きはフリーズし、野薔薇のピザから具材が落ちた。
「は!?」
「何があったんすか」
「…えぇ!?」
破局したこと以外のことは、どの話も長くなる。
それに、上手く話せる自信もない。
「喧嘩別れじゃないから大丈夫」
「「「…」」」
「全然気まずくないし、案外普通…」
「ちょ、伏黒…おまっ…」
「あー、見んなくそ」
…えぇ!?
恵が涙ぐんでる。
えっ!?
これは想定外…。