第45章 酒の力
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「余計なことしてごめん」
「…ううん、ありがと。でも、ちょっと…頭痛いかも」
硝子の手を借りて、ベットから背もたれ付きの椅子に移動した。
「コーヒー?酒?」
「コーヒー牛乳」
「そんなのない」
「…じゃあ、水」
頭痛の原因は様々。
渡された水を一気に飲んで、1度深呼吸。
”今夜家行くからね♪”
「くそっ…。イライラする」
「…落ち着け」
今夜家に行く?
はぁ?
私はもうアンタの恋人じゃない。
理由があるとはいえ、別れようと言ったのはそっち。
適度な距離を保とうと言ったのもそっち。
悠仁のこと、今回の件のこと、呪力を使うなと言ったこと。
悟と話さなくてはならないことは沢山あるけれど、それを家で話す必要は無い。
あの家は1年近く悟と過ごした思い出の場所。
最近、やっと1人に慣れてきたのに、どうしてそれを邪魔するんだ。
「どうして邪魔するかなぁ…」
それに、人が死んで純粋に悲しんで、怒って、泣きたいのに。
どうして余計なことにイラつかなくてはいけないのだ。
1つの事柄に基づく感情に集中させてくれ。
「…五条側にも色々あるんだろ、きっと」
「なら、教えて欲しいよ」
この間、初めて私が暗殺されかけていたことを教えてくれた。
それはその時までずっと。
その事実を悟が1人で抱えていたということ。
私のことを殺そうとする動きが個々人ではなく、組織的に行われていたことは受け入れ難いことだったけれど、その事実を聞いて私は不思議と嬉しかった。
殺されかけて嬉しいのではない。
悟が話してくれたことが嬉しかったのだ。
皆は私のことを秘密主義だというが、悟も中々に秘密主義だと思う。