第45章 酒の力
「悪い。手が出た」
「…大丈夫。私もスッキリしたから」
大人2人が神妙な顔をする横で、私達2人は顔を見合せた。
(後で来た方がいいんじゃね)
(何でよ。ここまで来たじゃんか)
(でも、でも)
(うっせーな)
虎杖を押し退けて、彼女の元へ。
「体は?」
「あ、大丈夫」
「っそ」
むむむ。
小動物のように睨まれたけれど、それは痛みを我慢しているからだろう。
今、彼女を相手すれば、あっちは必ず無理をする。
「硝子さんのビンタ!迫力凄かったっすねー」
対象を硝子さんに方向転換。
「そう?君たちも怪我がないなら、とっとと帰りな」
「はーい!」
まぁ、外にはまだ怪我人がいる。
硝子さんの言い分はもちろんだ。
「八乙女さん、体だいじょーぶ!?」
「まぁ…っていうか、悠仁」
虎杖の体に震えた手を伸ばした彼女の手を、硝子さんが掴んだ。
「虎杖、頼む。今は千夏に関わるな」
「え、あ。うん」
それにしても、今日の硝子さんは機嫌が悪い。
きっと私達の関われない領域で、何かあったのだろう。
「…後で話すことあるから。部屋来て」
「…うん」
ならば、話すのは後でいい。
今は関わらない方がいいのなら、後に回すだけ。
「なーなー。ピザ頼まね?んで、伏黒の部屋行こーぜ」
「賛成。その前に飲み物買お」
団体戦でリタイアした私は、例の騒ぎには巻き込まれなかった。
そのおかげで怪我は軽く、体も自由に動く。
しかし、伏黒はその逆。
今は自室のベッドで寝込んでいる。
隣には怪我でボロボロの体の持ち主がいるが、コイツがピンピンしているのはアホだからだ。
『伏黒の部屋にいるから』
例の彼女にそう連絡して、私達は好みのピザを注文した。