第44章 修復 可・不可
教え子2人が抱き合っている中、自分がここにいることに違和感を抱き始めた。
2人でしか話せないこともあるだろう。
千夏が落ち着いたらもう一度戻ってこようと思い、体を出入口の方向へ向けた。
「茶髪の人…」
「…残念だけど、亡くなったよ」
「あの人の肩、私が取っちゃった」
ドアノブを掴みかけた体が止まる。
「どういうこと」
「ごめ、んなさ…い」
「…何があったの?」
「治そうとしたんだよ。でも…」
千夏が人を傷つけた?
いや、待て。
これは言葉が悪い。
「ううん。こんなの言い訳だよ。あの人を殺したのは…」
「落ち着け。あの人の死因は腹部の傷だ。千夏のせいじゃない」
…。
何故だか、とんでもないことを聞いてしまったような気がした。
「私っ…悟と約束したのに…」
「アイツと?」
「呪力、使うなって…」
「はっ…なんで。そんなの無理でしょ」
「でも…」
「安心しな。私と学長が庇ってあげるから」
硝子の真っ黒な目が俺をとらえる。
まぁ、いざとなれば介入するが…。
それよりも、千夏が肩をもいだという事実の確認をしたい。
(「まずは僕だけね」)
(「俺らも!」)
(「言うこと聞いてよー。先生の命令ー」)
ノックもなしに目の前の扉が開く。
危うくぶつかりかけたが、間一髪でドア横に避けられた。
やってきたのは話題の中心の人物とその生徒。
「やぁ。千夏の様子はどう?」
「…まぁまぁ」
「どっち?」
背の高い彼に見下ろされれば、彼女達は顔を見合せ気まずい顔をする。
「僕との約束を破ったってわけね」
見下ろされた千夏は下を向きながら、遂には下半身にかけられていた布団に顔を押し付けた。
「それには弁明の余地がある」
「なんで硝子が言うわけ?」
「今のアンタに、千夏を関わらせたくない」
…。
確かに悟からは厳しい視線を感じるけれど、今まで硝子がそこまで言う様子を見たことがなかった。