第44章 修復 可・不可
「千夏に言い分があるのは分かるよ。でも」
「それは私も同じ。今は…私に任せて」
「…分かったよ。でもひとつだけ」
悟は一瞬だけこちらを見て、千夏の顔に手を添えて目を合わせた。
そして、耳元で何かを囁いた。
すると、次の瞬間。
硝子の顔が珍しく感情的になり、悟の頬を叩いた。
それに1番驚いたのは生徒達でも、悟でも、俺でもない。
硝子自身だった。
「…全く。私は何を…」
「ったく。ここにはヒスな女が多いこと…」
悟はケロッと、硝子は自分の手を見てため息をついた。
「んじゃ、そーゆー事で。学長、招集かかってますからねー」
「…ああ」
彼女たちに視線を送って、悟の後に続く。
交流会中にこんな事態が起きるなんて前代未聞であるから、とりあえず今は今後の方針と情報共有が先決だ。
「随分と可愛いもの持ってますね」
悟が指さしたところには、千夏の髪飾りが握られていた。
「ああ。返すのを忘れていた。後で返しておいてくれ」
「自分で返したらどーですかっ」
「その言い方…。また喧嘩でもしたのか?」
先程の硝子といい、2人、もしくは3人はまた喧嘩したのだろうか。
千夏と悟に関しては、以前のように殴り合いまで発展していないか心配だったが、それはあくまで冗談の域である。
だから、彼の一言も冗談だと思いたかった。
「あー、聞いてなかった?僕達、別れたんだよねー」
「…はい?」
耳を疑うとはこのこと。
「わ、かれた?」
「破局。今は親友?そこは曖昧なんですけどぉー…」
待て待て待て待て待て。
「この間、話したのは…」
「…あれは嘘じゃないですよ。その後急に状況が変わって」
そう、だよな。
プロポーズのことを話されたのは現実だ。
「…冗談だよ、な」
「冗談でこんなこと言いませぇーん!」
冗談でなければなんなのか。
悟達が喧嘩別れをしたとは考えにくい。
「…何故」
「詳しくはまた今度。ほら、もう着いちゃった」
悟の口角が上がっている意味が分からない。
彼の目を確認できないことが悔やまれる。
(破局?まさか)
何故、何故、何故…と、同じ事ばかりが頭の中を回る。
何故、何故、何故…。