第6章 変わらない優しさ
「自分の立場を考えろ」
古典的な電話音が鳴る。
先生は背を向け、相槌を打っていた。
その背中を恨めしく見ていたことは、誰も知らない。
「今連絡があった。悟たちが擁護者の安全を確保。今から海で遊ぶとか…」
「あっそ」
髪をかきあげて、席を立った。
口をしっかりと尖らせて。
「千夏」
「先生なんか大嫌い」
効果抜群だ。
先生のHPは半分に…!
なーんて。
「千夏」
「うっせーな。私の事大好きすぎだろ」
私が1歩歩く度に、名前を呼んでくる。
それに、おい、とか、待て、とか。
私は先生のペットじゃない。
「俺の頼みは聞いてくれないのか」
「聞かねーよ。どうせくだらねーことだろ?」
「聞いてから判断してくれ」
考えること1秒。
防御姿勢をとりながら、先生の言葉を待つことにした。
「これを書いて欲しい」
渡されたのは上質な紙で出来た一枚の紙。
『呪術師登録書』
その中の一部分が赤く丸で囲まれていて、早急に記入して提出しろと書かれてある。
私が提出を拒んでいる書類だった。
「去年も、入学時もこれだけは書かないって言ったよね」
先生は一瞬驚き、すぐに何かを悟ったような顔になった。
「…そうだったか。それでも、これは提出が必要だ。俺はこう言うしかない」
紙に力を込めると、クシャクシャと紙にシワが増えていく。
「千夏の気持ちは優先したいが、俺も…」
「次期学長だもんね。上の評価は失いたくないもんね。分かってるっつーの」
「違う。俺は…」
「あーもー、いいから。先生も大変だね、ほんとーに」
変な気遣いはいらない。
先生がいい人なのは知ってるし、私達を大切に思ってくれていることも知ってる。
分かってる。