第6章 変わらない優しさ
「ってことで、よろしく」
ポンとか叩かれてハッとする。
私は今、教室にいて、椅子に座っている。
前には硝子がいて、机の上には紙が1枚置かれている。
そして、硝子が教室を出ていった。
導かれるように紙に目をやると、驚くべきことが書かれていた。
『急募。1日アルバイトやりませんか?』
アル、バイト。
はぁ?
急いで硝子に電話をかけたが、出ることはなかった。
(思い出せ…。硝子は何を言ってた?)
このアルバイトに申し込む?
いやいや、私は金に困ってない。
「むっ、千夏しかいないのか。硝子は?」
私が頭を抱えているにも関わらず、夜蛾先生が教室に入ってきた。
まあ、先生が教室に来て悪いことは何も無いが。
「トイレじゃね?」
「…この会話、既視感が」
「?」
先生はいつも通り教卓に手をついた。
私しかいないのに。
「千夏に頼みがある」
「今忙しい。過去に遡ってんの」
「…風邪か?」
「うっさい」
先生は私の前に移動してきて、アルバイト募集要項の紙を手に取った。
「バイトするのか?」
「知らない。それを今考えてんの」
「お前…。本当に大丈夫か?」
「そっちこそ。私、先生のこと嫌いになりそうだけど大丈夫?」
先生にこの紙に纏わることを話した。
と言っても、硝子が私に何かを押し付けて出て行ったということしか、説明できなかったけれど。
「硝子、何がしたかったんだろう」
「知らん」
「聞いてねーよ。独り言だっつーの」
すると、先生は紙を丸めてゴミ箱へ入れてしまった。
「何すんだよ!」
「バイトは認めん」
「は?何よ。私が高専にいる時間を増やしたいのか〜。寂しがり屋め」
「違う」