第44章 修復 可・不可
軽い怪我ならば私も反転術式である程度まで治療できる。
そうだ。
まだ間に合うかもしれない。
いつの間にか私の周りには4人の体が集まっていた。
その人達が死んでいるのか、生きているのか。
そんなのどうでもいい。
彼らの未来が存在するべきであることを理解していればいい。
今まで何度も他人を治癒できる唯一の術師である硝子にコツを聞いた。
成功の兆しを得た時は、その感覚を忘れないように努力した。
千春にも治癒能力を得やすい術式を借りて雰囲気を掴む練習もした。
治癒が命を繋ぐ上で重要であることを意識して、硝子の足元にも及ばないほどの小さな治癒方法を得た時には、涙が枯れるほど泣いて喜んだ。
未だに硝子には敵わないけれど、今の私はあっても損ではない力を持っている。
その経験は幻だったのか。
ゴリッ
「…」
茶髪の男の腕が肩から綺麗にもげた。
私が今まさに治癒しようとした場所だった。
離れた腕からは白い骨が覗いていて、黒い血がどんどん溢れてくる。
その返り血が私の体や腕に飛んでいるけれど、男の顔は微動だにせず。
あれ。
私は。
何をしたの?
カラン、と髪飾りが落ちた。
先生から貰った、大切な髪飾りが、赤くて黒い、どぎつい匂いを放つ液体の上に、落ちた。
自分の手を見る。
真っ赤に汚れていた。
さっきは治すことが目的で、ここに呪力を集めて、軽く煽る感覚で、傷口に…。
タッタッタッ…。
黒いズボンと太い足が見えた。
「これ、は…」
低くて芯の通った声。
「せん、せ…」
先生は汚れ等気にせず私の前に膝をつき、汚れまくった私を抱き締めてくれた。
「この人たち…助けて…」
いや、私にそんなことを言う資格はない。
どこにもない。
「助けて…」
男達の体が浮遊した。
「硝子のところに行こう」
「助けて…死んじゃ……う」
誰が死ぬって??
その男の人たち。
それと、今までの自分だ。