第44章 修復 可・不可
我に返ったときには既にあの呪霊の行方が分からなくなっていた。
残されたのは1つの死体。
高専の職員はアリのようにたくさんいるから、その顔は見たことがなかったけれど、絶対にここで死ぬはずがなかった人だ。
「…ごめっ…んなさい」
泣くつもりはなかったけれど、1粒の涙が彼の頬に落ちる。
私よりも大きな体を担いで外に出れば、建物の扉を壊していたことを思い出し、少し落ち込んだ。
ブブブブ…
『こっちはそろそろ終わる。そっちは?』
「…まだ、かかる」
『何かあったの?』
「大丈夫。悟は早く皆のところに…」
『…本当に大丈夫なの?』
「うん」
『分かった。済んだらすぐそっちに行く。千夏のおかげで帷に集中できたよ。ありがとう』
違う。
本当の本当は…大丈夫なんかじゃない。
私は人を…。
「私はまた…」
切れた電話にそんなことを呟いてしまった。
生暖かい他人の体温が気持ち悪くて仕方なかったけれど、放り投げるわけにはいかない。
早く硝子のところにいかなくては…。
踏ん張って一歩ずつ歩いていると。
「おっ。頑張ってるねー」
「くっ…」
あの呪霊が堂々と目の前を歩いてきたではないか。
その両手には何かが握られていたが、物体としてしか認識できない。
「君のことを殺してもいいけど、そうすると怒られちゃうからさ」
「こッ…の…!」
「また会おうねぇ。八乙女さん♪」
悟を呼べば、コイツを…!
そう思って携帯を握ったけれど、私の視線の先に赤い水溜まりが。
「…」
あそこ…人…。
死んで…。
し、んで…。
「あ…あ、はぁっ…!?」
息ができない。
吸うばかりではなく、吐かないと…。
でも、冷静に対応する自分に体がついていかない。
自分の状態を改善するのが最優先で、担いでいた男の人の支を解いてしまった。
しかし、男の体は落ちてこない。
「死なないで…」
男の体は透明の台に支えられるように傾き安定し、遠くにある横たわる塊が近寄ってきた。
息を吐かないと…。
肺が破裂しそうだ。