第44章 修復 可・不可
「おっと」
「ぐぁっ!!!」
いつもの癖で戦闘中に術式を使ってしまう。
痛みに痛みが重なり、獣のような声が出る。
それでも、次の瞬間にはその痛みのことは忘れてしまう。
「ボロボロじゃん。どうしたの?」
「くっ…はぁ、はぁ…」
相手は呪霊。
核心をつかない攻撃は無意味だ。
「あの時のお姉さんを呼んだら?」
「っ…何で…」
「あれは怖かったなぁ。死ぬかと思ったよね♪」
千春が…助けてくれた、あの日の出来事が脳裏を掠める。
「傑は…。傑には、何もしてないよね?」
呪霊は惚け顔をして、ニヤッと笑った。
「したって言ったら、どうする?」
「殺すっ…!」
「嘘嘘。何もしてないよ」
傑は無事。
その報告だけで、ずっとつっかえていた骨が取れた。
「そんな顔しちゃって。あの犯罪者のこと、まだ信じてんの?」
「親友だから」
「ふぅん。そーいうの、つまらないなぁ」
つまらないとか、そういう感想はどうでもいい。
でも、少しだけイラッとくる。
「じゃあ、こっちも1つ質問」
彼は屈伸しながら、子供のように声を出した。
「どうして君らは五条悟を怖がるの?」
「は?」
その名に体が反応する。
ナイフをギリっと握り締め直した。
「五条悟が最強で、誰も敵わないからでしょ」
「へぇ。人間って変なの」
こんなことは常識だ。
だから、皆悟を恐れ、崇める。
だから、私は悟を────
「俺は君の方が怖いと思うけどね」
呪霊が逃げた。
これ以上ここに用はない、と言って。
私は動けなかった。
体が痛むからでは無い。
(私の方が、怖い?)
何を言っているのか。
ふざけるな。
そう思う自分がいる。
しかし、その反対に。
聞いてはいけない一言を聞いてしまったような気がして、震えそうになった自分もいる。