第44章 修復 可・不可
それに呪力も綺麗に飛ばなかった。
一般的に塊として飛んでいくはずの呪力だが、私のは手から漏れだした途端に暴れだし、まとまりがなく離散的に飛んでいく。
どんなに疲れていても、どんなに体が限界でも、こんなことは無かったのに。
「…千夏。今日は呪力使わないで」
「えっ、そんなの無理だよ」
「怪しい奴らを見ても戦わずに、僕に報告して逃げること」
「だ、大丈夫。多分、さっきの1発が悪かっただけで…」
「違う。僕には見えるから」
ドキり、と。
弱みを握られたような気持ちになった。
「千春が戻ってきたら使っていいよ」
「ちょ、悟!」
「じゃ、行動開始ってことで」
頭をクシャりと撫でると、悟はすぐに消えてしまった。
(…仕方ない、か)
今はあーだこーだ聞いている時間はない。
呪力を使わないという言いつけは守れるかどうか分からないけれど、善処しよう。
闇雲に動いても無駄な時間を過ごすだけ。
足を動かしながらも、効率のいい次の行動を考える。
高専の外に狙われるところなんであるだろうか。
悟がこちら側にいるというのに、何ができるというのだ。
…。
…。
…。
(千春に助けて欲しい…)
私になくて千春にあるもの。
それは圧倒的な知識力と考察力。
今まで千春に頼りっぱなしだったのも悪いけれど、どう頑張っても千春のような優れた頭脳を手に入れることは出来ない。
高専は広いし、たくさん建物がある。
虱潰しに動くのは馬鹿がすること。
悟の意見を聞きたいけれど、彼か彼でやるべきことがある。
(面倒だけど仕方ないなぁ)
悟に呪力、術式を使うなと言われたけれど、今は緊急事態。
まぁ、死ぬことはないだろう。
痛みくらい耐えてみせよう(不安だけど)。
「ふぅ…。少し時間を貰います」
その場で坐禅を組んで、呼吸を整える。
体の周りに徐々に膜がはられていくような感覚。
いい感じだ。
目を開けて具体的な位置を確認し、針に糸を通すような繊細さを用いて距離と強度を測り、調整しながら崩れたバランスの均衡を保つ。
その支える力を解けば…。
バンッ!
私の目に写っていた建物の扉が一斉に開いた。