第44章 修復 可・不可
「冥冥さん、ピンチ。謎の壁に追い出されちゃった」
『…』
返事がないということは、今はあちらから話せないという合図だ。
雑音すら聞こえないのだから、消音にしていること間違いなし。
「とりあえず、そっちに向かいます」
ホネホネが死んだ今、私が冥冥さんと楽巌寺学長のビジネスの邪魔をする目的も果たされた。
正直、そっちに行って一緒に観戦することしかできない。
『…待ちなさい』
「ん?」
遠くから声がした。
周りの雑音に飲み込まれそうになった声だが、次には聞き取りやすくなっていた。
『…くれ。委細承知。賞与期待してますよ……ほらおじいちゃ…』
確信をつくような会話は聞こえてこなかったけれど。
冥冥さんが”賞与に期待”と言った。
つまり、何かしらの褒美があることを頼まれた。
ということは…。
『千夏』
「ピンチなんだね」
『そう。稼ぎ時だ』
今回の交流会で、冥冥さんは荒稼ぎをする予定だった。
現実にはホネホネは楽巌寺学長の元に行ってしまったが、元の計画では冥冥さんが使用する予定だった。
ホネホネを使って人的被害がない程度に場を乱し、何らかの形で報酬を貰うという、言わば自作自演のピンチを巻き起こす計画。
もちろんそんなことはしたくなかったので、その計画が遂行されていたら、私は今回と同じようにホネホネをつけて監視していただろう。
『今、五条達がそちらに向かった。連絡をとって関わりなさい』
「はいよ。何があったの?」
『札が一斉に赤く燃えた』
「…了解。冥冥さんは監視役なのね」
『今日は冴えてるじゃないか。後は頼んだよ』
「うん」
全く、酷いことをする。
あの札、意外と作るの難しいのに。
息を深く吸って、吐く。
「私は…特別…」
千春がいなくなってから、初めてのピンチ。
どこまでやれるかは分からないけれど、精一杯の力を使おう。
まずは情報交換だ。